中国西北部における歌掛けの文化 ―花儿会―

中国の甘粛省の洮河流域を発祥とし、青海省・寧夏回族自治区の三省にわたって広く歌われている花儿(ホワール)という歌謡がある。このページは、洮河流域の花儿調査によって構成した。

歌掛けする年配の男女(中国甘粛省岷県、2010.06.27)下の歌詞とは関係ありません

歌掛けの例

次は2008年7月20日、甘粛省岷県秦許郷馬燁侖での歌詞例です。一人の男性と三人の女性(①②③)が対唱している。四人の年齢は三十代から四十代ぐらい。
(「中国甘粛省の民衆歌謡“洮岷花儿(とうみんホワール)”について ―東アジアの歌謡文化再考―」より)

1 男  鎌で細叶麻を刈り取る
よそのお客さんが私の映像を撮ってくれて私は嬉しい

2 女① 陰暦六月十八日の花児会で
私たちは鳩のように二つのグループにわかれている

3 女② (友だちよ)柏の木の蓋で酒甕にふたをする
あなたと付き合うことを望んでいるのに
私を畑の畔の上に立たせたままだ

4 男  私はやって来たのに、あなたはなぜ来なかったのか
今日はオートバイに乗ってやって来たのだけれどもすごくがっかりした

5 女① 脱穀広場の大麻はすでに柳になった
その木を伐って車輪にしたり枡にしたりした
蝿はその枡の廻りを飛び廻っているよ

6 女③ (私の人よ)鎌で細叶麻を刈り取る

7 女① あなたは細叶茶のようです
そのお茶を一両量って一杯呑めば
一つには渇きを癒し、二つには疲れが取れる
三つ目には私の恋心を抑える

8 男  (おばさん)四つ目は眠気をとるから嬉しい

9 女② (お父さん)天の神様は雨を降らせないので曇っている
私の心は湿っていてあれこれ考えている

10 男  (おばさん)天の神様は雨を降らせないので今晩は晴れるでしょう/私は今日出かけます

11 女① 馬燁侖の花児会に
あなたが山から出て来るように伝言を頼みました
燻製肉と涼粉はすっかり腐ってしまいました
神様へお供えした饅頭はすっかり乾燥してしまいました

12 男  馬燁侖の石墻子
あなたの伝言を受けて私は来ることにしました

13 女② (私の人よ)世の中のカラスは谷を飛んで行く
私は花児会の会場で気に入った相手を選ぼうと思う

14 男  沙木を伐って一枚の板を作った
たくさんの人がいますから好き勝手に選びなさい

15 女① 斧で李の木を伐った
私にとってはあなただけです
あなたはハンサムで話し上手だ(あなたの言うことは理にかなっている)

16 男  象牙の箸で麺を挟む
会う日をあなたが決めて下さい、私はいつでもいいよ

17 女① 私はあなたの歌ったことを繰り返しましょう
会う日は十一営の市の日にしましょう
大南門のところであなたを捜します

18 男  鎌で緑の芹菜を刈り取る
小南門のところであなたを捜したが居なかった

19 女② 二郎山の山の麓
心臓も肺臓も肝臓もみな痛くなるほどあなたのことを思っている
ヒキガエルのように寝返りを打っている

20 男  (おばさん)斧で水白楊を伐った/どうしてあなたは歌っているけれども私は歌っていないのか

21 女① あなたも歌っているし私も歌っているよ
私は牛追いのようにあなたに歌いかけている
腹立たしい気持ちでいっぱいです

22 男  鎌で紅叶材を伐った
(おばさん)私は今日わざわざあなたの足跡についてやって来た
足跡は残っているけれどもあなたは居ない

23 女① 私は足跡を泥の中に残している
足跡は残っているけれども私はそこに居ない

24 男  鎌で薪を一本伐った
(おばさん)私は大河溝岔へあなたを捜しに行く

25 女① うわべだけの情けを盛った皿を幾皿も私に持ってくる
あなたの本当の情けは少しも盛られていない

26 男  斧で白樺の木を伐った
私はあなたにあらゆる誠意を示しました
私の歌にあなたは答えてくれますか

27 女① 斧で香杆を伐った
私と付き合う人は多いけれどもその中にあなたは居ない
これでは二人にとって損です

28 男  私は以前あなたと付き合うことを望んでいた
(おばさん)あなたは兄の私を畑の畔の上に放っておいた
あなたと付き合うことを楽しみに生きてきたのに

29 女① 私は誠意をもって付き合っているのに
あなたは口先だけで私を弄んでいる
あなたの巧みな言葉にまるめ込まれて私はうとうとと眠くなった

30 男  (おばさん)麻の縄で箒を作った
あなたに弄ばれて中途半端な状態になってしまった

31 女③ 家は貧しくて誰にも頼れない
私を連れて駆け落ちしてください
私を連れて両河口へ逃げてください

32 男  川端の楊柳と夾線柳
兄の私と一緒に逃げましょう

33 女① 篩のような丸い月が出た
そんな話は嘘でしょう

34 女③ 枇杷の花は赤い四つの花びらを開く
オートバイに乗っている恰好いいあなたに騙された

文献

板垣俊一『花儿会と歌垣 ―辺境の歌文化―』2019年9月,  三弥井書店刊